2008年11月06日
【相撲節会】(せちえすもう)
相 撲 の 節 会(すまいのせちえ)
(旧暦七夕の宮廷行事)
我が国は、文武両道を兼ね備えた国柄であり、1千年以前より宮中の年中行事に、「三度節」というものがあった。正月十七日の射礼、五月五日の騎射(きしゃ)(馬に乗って弓を射る)、七月二五日の相撲の三節会である。
「相撲の節会」とは、相撲節期日の数日前から左右近衛府の相撲所が開設され、相撲の稽古が始まるのである。左方は左方同士、右方は右方同士である。この稽古を「内取(うちとり)」といい、今の地取に当る。左右の府で行うものを「府の内取」という。
期日二日前になると、相撲人を宮廷に招集し、仁寿殿、若しくは清涼殿のお庭で、稽古を天覧された。
これを「御前の内取」といった。先ず左方から始まり右方に及ぶ。各々1番から15番まで、左右合わせて30の取組がある。左右近衛の大将は、始終相撲人名の上に、爪で記しを附け、勝負附をとり、 節会の当日、「召合(めしあわせ) 」といって、左右を敵・味方に二分し適当に相撲人を組合わせて勝負を決める番組を作成した。

(平安朝相撲節会の絵図)
節会の前日の紫宸殿は、隈なく酒掃され、御帳帷(みちょうい),御簾、御屏風などで飾られ、玉座、御座、皇族以下高官の座が設けられた。
相撲場となる南庭が、掃き清められ、長楽・永安門寄りに白砂が敷きつめられた。幔(まく)が所々に張り廻らされて、所役の座が設けられ、ずっと下がって相撲屋(今の相撲だまり)が出来る。
承明門(紫宸殿の正門)内には、楽器が配置され随分すばらしいものとなる。
当時、土俵はなく、白砂の上に見物する人たちは、相撲人の勝負を取り囲むようにして座った(人方屋=人土俵)。土俵がない為、今の押し出しはなく勝負は手や膝を付く、投げる等で決められた。
当日装束司は、上下の御衣紋を身にまとい、相次いで、相撲人、楽人(左右各6人)が参入する。
午前十時、天皇が紫宸殿に御出座されると、左の大将、右の大将が順次進んで、それぞれ天皇に相撲の書状を献上し、それから番組が進められるのである。
次いで、相撲人を監督する「相撲長(おさ)」(今の頭取)左右各2人が、退紅袍(たいこうほう)・白下襲(したがさね)・白布袴・帯剣(たいけん)という出で立ちで式場に出る。
次に、相撲を立ち合わせる役の「立合(たちあわせ)」(今の行司)が出る。この服装は、相撲長と同じだが、箭(や)(矢)負い、弓を持っている。最後に、当日の勝負数を計算する「籌(かず)刺(さし)」が出る。
これも弓矢を身につけている。こうして当日勝負の審判官は、近衛府の長官(かみ)(大将)又は次官(すけ)(中・小将)によってなされるのである。

(相撲人絵巻)
相撲人の服装は、身に布の犢(とく)鼻(び)褌(こん)(今のふんどし)を締めこれに紐(ひも)小刀(がたな)を差し、烏帽子をかむり、袴をはかずに狩(かり)衣(ぎぬ)だけを着て、足は跣(はだし)という姿である。
いよいよ出場となると、これらの衣類は承明門寄りの円座に置き、犢鼻褌一つとなって勝負をする。裸同士では、見分けがつかないためか、左方は橘、右方は瓠(ひさご) (ゆうがお)の造花を頭に差して出るのである。
この挿頭(かざし)花については「ゆふがほに、あふひの花のさしあひて、いづれが色のかたんとすらん」という和歌がある。又この造花及び剣衣については、勝った方のものは、縁喜よしとし、「肖物(にもの)」といって、次番に着けさせる習慣があった。
相撲の開始は、先ず左方の相撲人が左近の桜樹の下に、次いで右方の相撲人が、右近の橘樹の下に進み立つ。
このようにして、「立合」の誘導の下(もと)に天覧の栄光に輝きながら、龍(りゅう)攘虎撃(じょうこげき)、肉弾相搏(にくだんあいう)つ相撲が進められるのである。

(勝利の舞・絵図)
一番毎に勝方の「立合」は舞を舞い、負方に対し笑声を浴びせかける。
負方はその都度「立合」「籌(かず)刺(さし)」が取り替える。勝負が容易につかないのは、承明門の方へ追下げて、次番に移る。
又勝負が判然としない場合は儀式の総指揮者である「上(じょう)卿(きょう)」が左右の次将(中・小将)を階下の東西によんで所見を求め、あるいは公卿に聞き、それでも決まらない時は、「天判」と称して天皇の御裁決を仰いだ。
日が西に傾く頃、十七番で終了するのである。左方、右方の勝星を数え、その多いほうが勝とした。しかし「最手(ほて)」――今の大関――が勝てば、勝星の総数に関係なく、その方が勝利となった。
勝った方は「乱声」といって、大鼓、鉦鼓をうって囃し立てる。左方が勝てば「抜頭(ばとう)」、右方が勝てば「納蘇(なそ)利(り)」の舞が舞われ、左右の楽人が一緒になりその楽を奏するのである。
舞楽が終わった後に、天皇還御(かんぎょ)、王卿以下が退下し、全ての御儀が、終了するのである。

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