2008年06月25日
BMW M3クーペ
ニューカーレポ-ト:BMW M3クーペ
◇気持ちのいい加速感と操作性
プレタポルテの世界
Mモデルは、BMW・AGの100パーセント子会社、BMW・MGmbHが企画・開発を担当するスペシャル仕様車。M各モデルは、エンジンや足回りのメカニズム系をはじめ、内外装にも徹底したリファインが加えられ、独自のテイストを発散する。エンジンは専用開発で、高回転・高出力が基本ポリシー。
ベースの3シリーズは、1960年代の名車、02シリーズの後継モデルである。02シリーズのボディは2ドアセダンだけで、初代・3シリーズもそれは同じだった。そして、初代・M3は2代目・3シリーズをベースにして誕生したが、やはりボディは2ドアだけだった。こうした系譜を振り返れば、なぜメーカーが使い勝手では4ドアに劣る2ドアのM3にこだわっているか、がわかる。
M3はメルセデス・ベンツCクラスAMGやアウディS4/RS4といった4ドアだけでなく、2+2クーペのポルシェ911もライバル視しており、多くのユーザーもそれを認めてきた。その意味でも、M3は孤高の存在である。
新型M3は4代目モデルにあたり、4シーターのプレミアムスポーツとしては、長い歴史を持つ。その経験と実績は、“巧みなスペシャルカラーの表現”にも表れている。
バンパーやサイドスカートなどのエアロパーツに専用パーツを装備しただけではなく、前後のフェンダーはフレアし、ボンネットにはパワーバルジが盛り上がり、ルーフは軽量なカーボンファイバーに変更。マフラーは迫力のある4本出しを採用した。それでいて、トランクリッドのリアスポイラーは控えめなデザインだ。インパクトを追求しながら派手さを抑え、スポーツ性とプレミアム性を絶妙に調和させたディテールといえる。 キャビンも基本的には3シリーズ・クーペと同じ。ラグジュアリーな雰囲気を漂わせつつ、Mカラーの3色ステッチが入ったステアリングホイールや、シェイプの深いフロントシートなどで、特別なモデルをさりげなくアピール。このあたりの演出もまた見事な計算だ。
新型M3は、2モデルにわたって搭載した直6に替えて、4リットル・V8エンジンを採用した点が最大のトピックだ。BMWのアイデンティティでもあるストレート6との訣別を惜しむファンがいるかもしれないが、もともとM3は初代モデルでは2.3~2.5リットル直4を積んでいたし、6気筒にこだわったモデルではない。
それはM5やM6についてもいえることだが、Mシリーズはその時代における最高のパフォーマンスを獲得するために、最適のエンジン形式を選んできたのではないだろうか。新型M3ではその結論がV8だった、とボクは思う。
ライバルのS4/RS4やCクラスAMGも、いまやV8を搭載している。さらに3シリーズ・クーペには、306ps/40.8㎏・mを発揮する3L直6ツインターボを積む335iをラインアップ。自然吸気にこだわるM3が、6気筒のままで同モデルの性能を超えることは、物理的に難しい。新型車がV8を選択したことは、こうした状況を考えれば当然の結果に思えてくる。
M3が発揮する40.8キロ/3900rpmの最大トルクは、4Lとしては平均的だが、最高出力(420馬力/8300rpm)には驚く。リッター当たり100馬力以上という出力だけではない。発生回転数が8000rpm超という事実は、Mの称号にふさわしいスペックである。
もちろん加速は、このデータをまったく裏切らない。街中走行でも不自由しない低中回転域での扱いやすさを備えながら、回転を上げていくにつれ力感を増し、レスポンスを鋭く研ぎ澄ませ、サウンドを滑らかに調律しつつ、8000rpm以上まで一気に回りきる。そのときの加速は、約1.6トンのウエイトを忘れさせてしまうほど強烈である。
乗り心地は、加速とは別の意味で驚かされた。なぜなら、“ラグジュアリーカー”と呼んでもいいほど、マイルドなのである。新型M3は、3段階切り替え式の電子制御可変ダンパーを組み込む。この機能は、コンフォートやノーマルはもちろん、スポーツにセットしても、快適といえるフィーリングを提供してくれる。 旧型よりも大きく重くなったボディに、素晴らしい乗り心地を組み合わせているのだから、身のこなしはそれほどキビキビしていない。しかし、ロードホールディング性能の高さは、4シーターとしては文句なしにトップクラス。しかもDSCを“Mダイナミックモード”にセットすると、アクセル操作でリアを軽くスライドさせながらコーナーを立ち上がるという、FRスポーツならではの醍醐味が堪能できる。
モデルチェンジを重ねるたびに快適性能を高めつつ、走行性能にも磨きをかけてきたM3の進化はある意味、クーペボディのライバル、ポルシェ911と共通点がある。となると、911でいえばGT3のようなモデルがほしい、と思うファンが出てくるかもしれない。おそらくその要求は、旧型でも存在したCSLのようなモデルとして満たされるのではないか、とボクは考えている。